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こんなに違う!自衛隊のスキー!

スキー徽章

 積雪地の部隊では、雪山での戦闘に備えてスキーの訓練をします。
 雪山はスキー場のように圧雪されていませんし、上から下に滑るだけでは戦闘行動になりません。

 自衛隊で使用しているスキー板は、履いたまま山を登ったり新雪の上を滑ったりする事が出来ますが、非常に取り扱いが難しいため幼少期からスキーをやっていた私も非常に苦労をしました。

 今回は、一般の人がイメージするスキーとは全く違う自衛隊のスキーについてご紹介します。

一般的なスキー板との違い

 現在、レジャー向けに流通しているスキーはアルペンスキーと呼ばれる種類のもので、スキー靴とスキー板が完全に固定されます。(下表右端)

主なスキーの特徴 日本スキー学会講演より

 アルペンスキーでは滑走のしやすさや怪我予防のためスキー靴ですねまで固定し、スキー靴ごとスキー板に固定しています。

 一方、自衛隊で使用しているスキー板はテレマークスキーと呼ばれる種類で、つま先のみが固定されている事が特徴です。(表の左から2番目)

 スキー板も比較的直線的な形をしていて、現在主流のカービングスキー(厳密にはアルペンスキー用のカービングタイプの板)とは形が異なります。

左は一般的なカービングスキー Wikipediaより引用
右が自衛隊で使用されているスキー板

なぜテレマークスキーを採用しているのか?

 一言でいえば、何でもオールマイティにこなせるからです。

 テレマークスキー(Telemark skiing)は、19世紀後半にノルウェー南部のテレマルク地方(Telemark)を中心に発展した現代スキーの原型とも言えるスタイルである。

 現在あるアルペンスキークロスカントリースキースキージャンプは、このテレマークスキーからそれぞれ滑り歩きジャンプに特化したものと考えてよい。逆に言えば、1つの用具でその全てをこなせるのがテレマークスキーである

Wikipediaより引用

 自衛隊では、積雪地で戦闘をする為にスキーを装備しています。
 戦闘中に雪山があったら登らなければなりませんし、戦闘行動を行うには様々な姿勢を取れなければならず、かかとがフリーになっている事もテレマークスキーが採用されている理由です。
 左の写真の奥に写っている隊員のような姿勢です。

CONDUCTOR様のTwitterを引用させて頂きました。

 この頃から今と同じ板を使い続けているんですね……

 自衛隊のスキー板は長さが1種類しかなく、身長に関わらず195cm程の長さの板を全員が使います。
 この板は古いせいか物凄く重く、ちゃんと量った事は有りませんが左右合わせて6kg程度はあるように感じました。

 最近は自衛隊でも、カービングタイプに少しだけ近付けた緩めのサイドカーブがついた物が出てきたようですが、自衛隊はお金がないので更新されるペースは遅いと思います。

 次ページからはスキー訓練の内容について解説します。

どんな訓練をするの?

 自衛隊のスキー訓練には「機動」と「滑走」の2種類ありますが、スキー訓練というと通常は機動の事を指します。

 積雪地の部隊には冬季戦技協議会というものがあり、スキーを履いて雪山でやるマラソン大会ですが、機動訓練はそれに勝つ為にやっているようなものです。

冬季戦技競い、雪上を疾走 クロカンスキーで中隊対抗-陸自・第1特科群|ニュース|苫小牧民報電子版
陸上自衛隊第1特科団(団本部・北千歳駐屯地)の部隊、第1特科群(松尾幸成群長)は9日、北海道大演習場北千歳地区で恒例の冬季戦技競技会を行った。クロスカントリ…

機動訓練

 機動の訓練ではスキー板を履いて雪山を走り回ります。
 自衛隊のスキー板には滑走面にうろこが付いていて、うろこ部分で雪を噛むので斜面を真っ直ぐ登る事が出来ます。

 滑走面の状態が良くないですが、自衛隊のスキー板はどれもこんなものです。

 カニ歩きでもV字歩きでもなく、斜面に対してスキー板を垂直にしたまま真っ直ぐ登っていく光景は、一般的なスキーしかしていない人には凄く異様です。

 しかし斜面を登るのはそこまで楽な物ではなく、重い荷物を背負ってアイスバーンや急斜面を登る際はうろこをしっかり噛ませないと滑り落ちてしまうので、一歩一歩雪を踏み固めるようにして登ります。

陸上自衛隊丘珠駐屯地HPより

 機動の訓練は、駐屯地で所有している山の広さや、間借りするスキー場の広さにもよりますが、頂上まで登り下まで滑って降りるのを2~3セット繰り返します。
 (訓練時間は1~2時間程)

 運動強度的には、中距離のインターバル訓練を行っているようなものだと思って貰えれば分かり易いと思います。

 そのため身体は非常に熱くなるので、防寒外衣がいい(自衛隊のスキーウェアのような物)は一切着用せず、吹雪いていても氷点下一桁くらいまでなら殆どの隊員は、Tシャツと普通の迷彩服だけで雪山を駆け回ります。(重い物を着ていると辛いというのもあります)

防衛日報デジタル 名寄駐屯地より

 そんな薄着でもシャツは汗でびしょびしょになりますし、気温は低いので激しい呼吸をすると粘膜保護のために鼻水などが止まらず、それらを拭く余裕もないため、ゴールする時には顔が汗と鼻水とよだれまみれになります。

アキオ曳行えいこう

 更に「アキオ」と呼ばれるソリを4人でく訓練もします。
 男性みたいな名前ですが、フィンランド語でソリを意味するahkio「アハキオ」が語源です。

 荷物を運搬するための物ですが、ちょうど一人乗せられるくらいの大きさなので負傷して動けない人員の搬送にも使えます。写真のように1列になってロープをタスキ掛けし、全員で声をかけながら息を合わせていていきます。

写真は陸上自衛隊丘珠駐屯地HPより

 下りの時は滑走するだけなので楽ですが、アキオに追突されないように一人がブレーキ役としてアキオの後ろでずっと制動をかけ続けるため、ブレーキ役に当たった隊員だけ辛い思いをする事になります。

第11特科隊HPより

 アキオは重量があり速度も出やすいので、頂上からふもとまで後ろをやった時は太ももの筋肉がちぎれるかと思いました。

滑走訓練

 こちらは普通のスキーのように、斜面を滑り降りる技術を磨く訓練です。
 5kgの重りを背負わされますが、機動訓練に比べればこちらは楽しい訓練です。
 機動訓練に比べて運動量が少ないので、防寒外衣を着用して訓練をします。

 滑走には検定があり、等級ごとに使用するターンの種類が決められています。

 3級:プルークボーゲン
 2級:シュテムターン
 1級:パラレルターン
 特級:テレマークターン+スキージャンプ等

 積雪地部隊に配属されて1年目は3級で許されますが、2年目以降は2級を求められます。

 「シュテムとか初心者からでも数時間でいけるっしょwww」とか思ったそこの貴方、これを見ても同じ事が言えますか?

 靴は積雪地部隊のみに支給されている、防寒靴ぼうかんかという防寒性能が高い脛丈すねたけくらいの普通の革靴です。
 かかとの部分に溝があり、バッケンと呼ばれている金具と革紐で靴の前とかかとを固定しているだけの状態で滑ります。
 これまでの説明通り通常のスキー靴と違って足首が自由に動かせますし、かかとも浮きます。

 革の紐で固定しているだけなので靴と板に遊びがあり、この状態でも少しくらいならかかとを左右にずらす事も可能です。
 非常に不安定なため、強靭な下半身の筋力と卓越したバランス能力が無ければパラレルターンは出来ません。

 私は3年目にやっとパラレルターンが出来るようになりましたが、スキー指導官に頼み込んでプライベートで一緒にスキー場に付いてきてもらい、自衛隊のスキー板でひたすら練習しても3年かかりました。

まとめ

 この板で滑るのは物凄く難しいです。

 スキー靴をしっかり締めず、ゆるゆるの状態で滑ると自衛隊のスキーに近いものは味わえるかも知れませんが、大変危険ですので決して試さないでください。ケガを負っても当ブログの運営者は責任を持てません

 私は幼い頃からスキーをしていたので、普通のスキー板ならパラレルターンで上級者コースを滑る事が出来るくらいの腕前でしたが、自衛隊のスキーを履いたら何も出来ず斜面の横滑りからやり直しました。

 自衛隊のスキー指導官は、SAJのスキー指導員の資格も持っていたりするので一般のインストラクターとも仲が良い人が多いのですが、試しに自衛隊のスキー板で少し滑らせてあげたら殆ど滑れなかったそうです。

 カービングスキーはエッジを立てるだけで板が雪面に食い込み、技術が無くてもよく曲がるように作られているため、未経験者でも比較的早く滑る事が出来るようになります。

 ひるがえって自衛隊のスキーでは、今の一般的なスキーではあまり必要が無い重心移動足の内転斜面に対する足首の角度の調整などの技術を必要とするため、習得に時間はかかりますが技術は物凄く上達します。
 慣れさえすればスキー靴の拘束が無く非常に楽なので、1日中滑っている事も難しくありません。

 興味が湧いた方は、是非1度自衛隊スキーに近いテレマークスキーを試してみてはいかがでしょうか?

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