先に言っておきますが、私もサービスデザイン推進協議会→電通のワンクッションは、持続化給付金事業のどの部分を請けたかが不明で納得がいっていませんので、下請けを全面的に肯定する訳ではありません。
電通が受注し業務を5社に振り分けた部分については、今の所は適正だと思います。
持続化給付金の中抜き問題が話題になっています。
まぁ、ボランティアじゃないので中抜きよりも利益と言った方が正しいと思います。
この問題をきっかけに官公庁事業の再委託に注目が集まっているようですが、発注する公務員側や、官公庁の仕事を受注している企業さんからすれば日常風景で、特に珍しい事ではありません。
この記事では、官公庁の事業に再委託が発生してしまう理由を解説します。
実務を担当する企業が入札に参加できない事がある
最近の事はわかりませんが、少し前までは多くありました。
基準は各省庁や取り扱う案件によって変わると思いますが、一定の規模以下の企業はどんなに優秀でもノーチャンですし、入札要項を満たしていない企業も入札に参加する事は出来ません。
ただし、入札要項を満たす大手企業が落札し、事業の一部を「要項を満たしていない企業」に再委託する事は可能です。
制限を設ける事は競争を阻害する原因にもなりますが、中国系の聞いた事も無いような零細企業が入札に参加して落札し、結果全く使えない粗悪品を納入されて計画倒産されるような案件もありましたので、一定以上の基準を設ける事は必要な事だと思います。
官公庁の契約の支払いは全額後払い
こちらがメインの理由となりますが、まずは国の経費執行の概要を説明します。
国の予算には大きく分けて
単年度内に契約~清算を全て終わらせなければならない「歳出」
契約をした次年度以降に清算をする「国庫債務負担行為」(以下、国債)
の2種類があり、国債には次年度の3月までに清算する「2国」から、4年後の3月までに清算する「5国」まで存在します。
歳出の契約で、納期が年度内に間に合わない場合に次年度に繰り越す事
3国の契約が早く完了し、2国の期間内に繰り上げて清算する事
などの予算の清算タイミングを年度を跨いで変更する事は出来ません。
また、予算を使用する際に、1億の契約を歳出5,000万と2国5,000万で契約するような、1つの契約に対して複数の種類の予算を使用する事も出来ません。
工期が長い場合は、支払のタイミングが遅れる事の影響が非常に大きく、5億円の事業を5国で受注した場合、利益が20%だとしても4年間4億円の出費に耐えられなければ途中で破綻してしまいます。
厳密には一部先払いや、契約途中での一部清算も可能ではありますが、手続きが非常に煩雑かつ、許可を貰う事が難しいので殆どありません。
持続化給付金等の「お金を直接やり取りする事業」では違う可能性もありますが、官公庁の契約は、全額納品後の後払いが原則となっています。
今回の持続化給付金の契約が後払いであれば、769億もの事業なので仮に純益20%だとしても、615億円程度を一時的に肩代わりできるだけの運転資金が無ければ受注する事は出来ません。(この件の支払いのタイミングは私にはわかりません)
先払いにすると海外逃亡などの持ち逃げリスクがあるため仕方ない部分がありますが、こういった制度が大手企業しか官公庁の巨大事業に参入できない原因となっています。
最後に
私は元自衛官なので防衛省以外の省庁では違う可能性もありますが、血縁の大手ゼネコン勤務者から聞いた話では、どこも似たり寄ったりのようです。
下請けが必要な場合は「下請申請書」に、事業のどの部分をどこに任せるのかを記載して提出しなければなりませんが、精々追えるのは孫請け辺りまででその先は全くわかりません。
私が扱っていた数千万程度の規模の契約でも孫請け以下まで存在しているので、今回の769億円の事業ともなれば、どこまで下請けがあるのか把握する事すら困難なのは、予算を執行する仕事をやった事が有る人なら容易に想像できます。
しかし、Twitter等で批判する人がよく言っている「利益だけ抜いて下請けに丸投げ」するような事は認められておらず、申請してきても許可は下りません。
業務の全てを最終受注者がやるような印象や、途中で利益だけ抜かれているような印象を与えますが、全くのデタラメです。
もしほぼ丸投げが出来るとすれば、企業体力的な理由で1社応札だった場合、子請けに1回くらいだと思います。(個人の妄想です)
通常の下請けなら、元請けが100の仕事を1億で発注者から受注し、95の仕事を9000万で子請けに出し、子請けが85の仕事を8000万で孫請けに出し、孫請けが75の仕事を7000万で曾孫請けに出し…と、金額と共に仕事も小さくなっていきます。
車に例えるなら、ディーラー等の元請けが発注者と納車する契約を結び、元請けがエンジン等の車を構成する部品を子請けに発注し、子請けがエンジンを構成するスターター等の部品を孫請けに発注し、孫請けがスターターを構成する組部品を曾孫請けに発注し、曾孫請けが組部品を構成する子部品を玄孫受けに発注します。
あっという間に4次下請けまで行ってしまいましたね。
官公庁の事業もこのような物だと思って下さい。
元請けは、車の例で言えば部品を集めて車を組み上げられる設備とノウハウ、各種部品の支払いに耐えられるだけの企業体力が求められる代わりに1番美味しい場合が多い事は間違いありません。
官公庁は何十年もこの方式でやってきているので、この現状を変えるためには国の予算執行の仕組みを丸ごと作り変える必要があり、10年やそこらで変える事は不可能です。
また、入札というシステムを採用しているため、クーラーの公募に「2年で壊れる30万のクーラー」と「10年で壊れる100万のクーラー」が入札されたら、30万のクーラーが落札されてしまいます。
結果10年あたりで150万かかり無駄なお金を使ってしまうケースが、官公庁では大量に発生しています。
この問題は予算執行に関わる職員も頭を悩ませていますので、何か良い改善案などがありましたら、是非Twitter等で議員さんに提案してみて下さい。