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幸か不幸か東日本大震災の活動を評価されて以降、国民の自衛官に対する印象はかなり良い状態です。
私が入隊した頃は自衛隊はまだまだ鼻つまみ者扱いでしたし、吉田茂元首相が自衛官に対して下記のスピーチしたとされている1950年代は更にひどい扱いだったと思います。
「君たちは自衛隊在職中決して国民から感謝されたり、歓迎されたりすることなく自衛隊を終わるかも知れない。非難とか誹謗ばかりの一生かもしれない。ご苦労なことだと思う。
平間洋一.大磯を訪ねて知った吉田茂の背骨.歴史通.2011,No.13,p.176-184
しかし、自衛隊が国民から歓迎されチヤホヤされる事態とは、外国から攻撃されて国家存亡のときとか、災害派遣のときとか、国民が困窮し国家が混乱に直面しているときだけなのだ。
言葉を換えれば、君たちが日陰者であるときのほうが、国民や日本は幸せなのだ。どうか、耐えてもらいたい。自衛隊の将来は君たちの双肩にかかっている。しっかり頼むよ」
昨年まで自衛官だった私は、自衛隊という組織に愛想を尽かしていたものの退職する直前までは自衛官として誇りを持って仕事をしていました。
自衛官が全員、志を高く持って勤務しているかと言えばそうでもないですが、志の高い自衛官は少なからず存在します。
その志の柱となっているものの一つが「服務の宣誓」です。
服務の宣誓とは
自衛官は全員入隊時に1枚の紙に署名、捺印をします。
その紙が入隊する時に自衛官としての覚悟を決め、誓いを立てる「服務の宣誓」です。
自衛官に限らず公務員は服務の宣誓をしますが、自衛官の服務の宣誓の内容は一際重たいものとなっています。
服務の宣誓
自衛隊法施行規則第39条
私は、わが国の平和と独立を守る自衛隊の使命を自覚し、日本国憲法及び法令を遵守し、一致団結、厳正な規律を保持し、常に徳操を養い、人格を尊重し、心身を鍛え、技能を磨き、政治的活動に関与せず、強い責任感をもつて専心職務の遂行にあたり、事に臨んでは危険を顧みず、身をもつて責務の完遂に務め、もつて国民の負託にこたえることを誓います。
この自衛官の服務の宣誓には、他の公務員と違い自衛官だけに課される特徴が二つあります。
政治的活動に関与できない。
文民統制の為に、自衛官が政治に関わる事は許されません。
しかし、国民の権利として投票権は存在するので投票先を選ぶ事は出来ます。
投票以外に出来る事はほぼ存在せず、選挙の呼びかけ等は全て禁じられます。
もう少し掘り下げたい人はこちらの記事を読んで下さい。
命を懸けなければならない
警察官や消防職員なども職務を遂行する上で命を懸ける事になりますが、自衛官の場合は最初から命を懸けると宣誓しなければなりません。
私の上司に、この部分が嫌で「宣誓書にサインをしたくない!」とゴネた挙句、半ば無理矢理書かされたという方がいました。
私にこの話をしてくれた時には「自衛官になってよかった」と言っていましたが、「あの時は本当に納得できなくて嫌だった」とも言っていました。
若干話が逸れましたが、自衛官は国民の為に命を懸ける誓いをしている事はわかって貰えたと思います。
大げさに聞こえるかもしれませんが、私の在職中に近い事は起こりました。
東日本大震災で災害派遣される際、福島の第一原発の事故で身体にどんな影響があるかもわからない状況で、原発から20㎞程度の場所に派遣しなければなりませんでした。
派遣人員を選出する時は、今後の人生設計を聞かれ「今後子供を作る予定が無い」隊員のみが選出されました。
この時は既に子供が大きい隊員などで足りましたが、頭数が不足すればその限りではありません。
また、崖で命綱を付けて非常に危険な作業をせざるを得なかった時の事ですが、小隊長は部下を死なせまいと自分が降りると言い、小隊陸曹は小隊長を先頭に立たせまいと自分が降りると言い、若手陸曹は身体能力が1番優れている自分達が降りると言って揉めたそうです。
最終的には順当に若手陸曹が降りる事で決着しました。
これらのように普段はともかく、災害派遣など命の危険を伴う現場で務めを果たす自衛官の士気は非常に高いです。
国民の為に命を懸けるという事
自衛官は有事の際、死ねと言われたら死ななければなりません。
これは「自害しろ」という意味ではなく「ほぼ生きて帰ってこれない任務を全うしろ」という意味です。遅滞戦闘を命じられた部隊とかがこれに該当します。
この辺り話し始めると長くなるので割愛します、よくわからない人はググってください。
中国の強引な領土拡大施策に伴う、世界情勢の不安定化には日本も他人事ではいられません。
寧ろ、尖閣諸島の実効支配や日本各地の土地買収、決算システムや通信インフラへの介入、政治家やマスコミへの浸透など武力を使わない侵略を受けている真っ最中です。
日中で争いになる事はまだ当分先の話でしょうが、これから入隊する人は定年退官まで30年ほどあります。そんな未来まで戦争が起こらないとは言えない状況になってきています。
戦争や東日本大震災のような巨大災害が発生したら、自衛官は国民を護らなければなりません。
例え護る価値のないゴミクズのような人間であったとしてもです。
また、根っからの異常者や悪人でなくとも非常事態で余裕がない人は利己的になりやすく、失望するような態度をする人もいます。
それでも身体を張って護るのが自衛官です。
東日本大震災では隊員も被災していますが、家族は全員無事だったものの実家が跡形もなく流された隊員や、10年経った今でも配偶者と子供が行方不明な隊員などがいます。
自身が被災し連絡の取れない家族の事で頭がいっぱいだったとしても、自分や家族の事は後回しにして責務を果たさなければなりません。
自衛官になると日常的に様々な制限がかかり、時には家族の事すら後回しにして任務に就かなければなりません。
脅す訳ではありませんが、これから自衛官になろうと思っている方はそれなりの覚悟を決めて入隊してください。甘い考えで入隊すると必ず後悔する事になります。