「晴耕雨読」というのが古来、東洋人の生き方の一つの理想像でした。
皆さんの中には多少なりとも、この「晴耕雨読」に憧れを持っておられる方もいらっしゃると思います。
それは、天気の良い時は田畑を耕して自然に親しみ健康な汗を流して要すれば自給自足をする、雨の日々は心静かに好きな書物を繙いて人生を想う、悠々自適な暮らしです。なんと素晴らしい事でしょう。
確かに憧れるだけの生活といって良いかもしれません。
然し、外国ならいざ知らず、我が国に在って「晴耕雨読」を人生のゴールとして生き、めでたくそのような状態に行き着ける人は稀有といって良いかと思われます。
第一、耕す畑どころか、自分の住居にするだけの土地を手に入れる事が大変です。
第二に、私どもの日常生活は甚だ文化的な様式にとっぷりと浸りきっておりますから、大袈裟に申せば一挙手一投足の全てにお金がかかります。
水1杯飲んでも、スマホの充電をしてもお金がかかる訳で、これらの文明の恩恵から逃避しない限り、幾らかの現金支出を余儀なくされ、のんびりしている訳にはいきません。
やはり「晴耕雨読」の生活というのは、高嶺の花だからこそ憧れるのかも知れません。
ところが、悠々自適をやられても良いと思われる方がお勤めに出たりしています。
「別に暮らしに困る訳ではないんだが、晴耕雨読では刺激が少ないし、ボケるのが怖いんでねぇ」というのが、その理由です。
人間誰しも老いてゆきますから、これは致し方が無い事です。
ただ、老いてゆくのが嫌だというのは、醜くなる、体力が落ちる、病気をする、などが連想されるからでしょう。
特にイヤなのは、記憶力が落ちる、頭の回転が鈍くなる、物忘れが酷くなる、挙句の果てには痴呆になってしまう、といった一連の「呆け」は耐えがたい事のように思われます。
年老いてゆくのは悲しい事には違いありませんが、人生必定のプログラムであるならば、希くは、呆けずに年を取っていきたいものです。
老いてもアタマがしっかりしていれば生きる楽しみは尽きないでしょうし、肝心のアタマがダメになってしまったら、これはもう、魂のある人間の部類から外れてしまう事になります。
お勤めに出られた方は、晴耕雨読も悪くないが、「呆けを防止する」若しくは「痴呆にブレーキをかける」ことが先決と考えられたのでしょう。
ラジオを聞くともなしに聞いていましたら「呆けを防止するため、アウトプット的な趣味を持とう」という意見が耳に入りました。
こういった意見を聞かれた事が有るかもしれません。
要旨は、
「単に音楽を聴いたり、絵を眺めたりするのはインプット的な趣味で、これだけだと呆ける。音楽を聴くより、自分で楽器を奏でたり作曲をするのがアウトプットで、これなら呆けない。同様に絵を見るより絵を描く事の方がアウトプットである」
「下手でもなんでも能動的な趣味を持てば、脳細胞はより活動的に生き生きとして呆けない」という事でした。
もしそうだとすると、
インプットの趣味
野球の試合を観戦する。
お芝居を見る。
歌を聴く。
マラソンを応援する。
ドライブ（乗せて貰う。）
ではなく、
アウトプットの趣味
野球をする。
自分で演技をする。
カラオケで歌う。
ジョギングをする。
ドライブ（自分で運転をする。）
といった具合に、無数にアウトプットの例が例えられます。
私は脳細胞というのはどんな形をしていてどんな活動をしているのかよく知りませんし、このアウトプット説が正しいかどうかわかりませんが、成程、そうかもしれないなぁと妙に感心してしまいました。
要するに、じっとして沈思黙考などしているよりは大いに身体を動かせばよいのかな、そうすると、身体を動かし続けている方はきっといつまでも呆けずに若くいられる筈だな、等と思った次第でした。
晴耕雨読をやっていたら必ず呆けてくるといった訳でもないでしょうが、日々身体を動かしヘタクソでもなんでもアウトプット的な趣味をもって暮らせば呆け方は少なくなるという事であれば、晴耕雨読の理想からは程遠い私どものこと、大変心強い話ではあります。