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災害派遣症候群

 曹候補生や防大、自衛隊生徒など合格の連絡を貰いこれから自衛隊に入隊する方々おめでとうございます。
 国防の志高く将来有望な若人が自衛隊に入隊する事は非常に喜ばしい事です。
 水を差すようで申し訳ないのですが、志の高い自衛官程陥りやすい病気のようなものが有ります。
 それの一つが災害派遣症候群というものです。

 自衛隊の平時の仕事はかなり地味です。
 補給統制本部や補給処や補給部隊などに勤務していれば、装飾品の維持管理の為に部品の在庫管理をしたり、企業さんと部品調達や外注整備の調整をしたり、修理計画を立てて将来の見通しをつけたりします。
 整備部隊なら、日々発生する装備品の故障修理をしたり、春と秋に大量の車両の夏タイヤ⇔冬タイヤの組換えをしたりします。
 普通科部隊は、持続走or徒手格闘or銃剣道の選手として部隊の為に頑張るか、課業中にフットサルやって忙しい部隊の隊員から羨望の眼差しを向けられています。

 1年の内2~3か月は演習場に籠って訓練をし、毎月警衛や当直などの特別勤務に就き、普段休みを取れない分お盆と年末年始に長めの休暇を取る。
 毎年、体力検定、格闘検定、射撃検定、救急法検定、勤務地によってスキー検定や水泳検定などの各種検定を受けて、持続走などの大会の為に訓練をします。
 かなり簡略化しましたが自衛官として生きるという事はこんな感じです。
 皆さんが知っている、災害派遣に行って被災者の為に汗水流すなんていうのは自衛官生活でそう多くない華々しい一部分にすぎません。
 「災害派遣の勤務をした事はあるけど、後方支援のみで現場に行ったことは無い」なんて隊員も数多く存在します。

 私は現職中に東日本大震災を含め4度現地入りしていますが、現地派遣される際の自衛官の士気は毎回非常に高いです。
 自衛隊が防衛出動を一度も経験していない以上、陸上自衛官が己の存在価値を示せる唯一の機会なので当然と言えば当然です。
 それ故、災害派遣を経験すると日常の勤務にやりがいを感じられなくなったり、災害の発生を望むようになったりするようになる隊員がいる事が有ります。
 それが災害派遣症候群とでも呼ぶべき症状です。

 冒頭でも述べたように、この災害派遣症候群は真面目で志の高い自衛官程かかりやすく、適当にのんべんだらりと勤務している自衛官はかかりません。
 しかし、真面目な人でも目の前の細かい事をコツコツと積み上げるタイプの真面目さを持っている人は大丈夫です。
 どちらかと言うと「国民の為に役に立たなくては!」と逸る血気盛んな若手に多く見られるようです。

 災害派遣で現地に派遣される事は非日常の高揚感を得られるため、クセになりやすい事は確かです。
 私自身も少なからず災害派遣に行く事に「楽しい」という感情を抱いていました。
 長い自衛官人生でもそう多くない機会なので当然と言えば当然なのですが、災害派遣を自衛官の本質と捉えてしまうと自身の認識と現実の齟齬でストレスを抱えてしまいます。
 日々のトレーニングや整備・事務などの業務も国防の上で重要な任務なので着実にこなしていって貰いたいと思います。

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