自衛隊に入ったらどれくらい休暇がとれるのか気になる方は多いと思います。
結論から言うと殆どの隊員は休みが取れず、有給を消化できないまま消滅させてしまっているのが現状です。
部隊や機関を色々と渡り歩いてきた私が、休暇制度とそれぞれ休暇の取得状況の実態を公開していきたいと思います。
自衛隊の休暇制度
自衛隊には色々な休暇制度がありますが、今回は関わる確率が高い「年次休暇」、「代休」、「特別休暇」の3種類を紹介します。
自衛隊の有給(年次休暇)
自衛隊の有給(以降、年次と表記)は年間24日付与され、前年度から最大30日まで繰り越せるので最大54日まで保有する事が出来ます。
年次は1時間単位で取れる休暇ですが、1日の勤務時間は7時間45分なので時間休を取ると45分の端数が出てしまいます。(時間休:1時間単位の休暇を取る事)
(年次休暇)第四十七条
自衛隊法施行規則
隊員の年次休暇は、一の年ごとにおける休暇とする。
2 自衛官の年次休暇の日数は、次の各号に掲げる区分に応じて、当該各号に掲げる日数とする。
一 次号及び第三号に掲げる自衛官以外の自衛官 勤務一月につき二日
1 年次休暇の日数関係
隊員の休暇の運用について(通達)
⑵規則第47条第2項第1号の「勤務1月につき2日」の取扱いについては、月の初日に年次休暇2日を付与するものとする。
令和元年度までは毎月15日に付与されていたのですが、令和2年度からは月初めに2日されるようになりました。
しかし、その月の勤務日数が退職や産休などで15日に満たない事が確定している場合は付与されません。
また、月始めに2日付与された後に怪我や病気などで15日の勤務を満たせなかった場合、年次休暇は付与されなかった事になります。
勤務日には、年次休暇や特別休暇、後述の代休も含まれるため、夏季休暇や年末年始休暇などの長期休暇がある月も付与されます。
年次休暇の繰り越し
自衛隊では、使用しなかった年次休暇を次年度に繰り越す事が出来ます。
(年次休暇)第四十七条
自衛隊法施行規則
4 自衛官の年次休暇の累計、使用日数及び残日数は、毎年三月三十一日に計算する。この場合において、三十日を超える残日数は切り捨てる。
3 年次休暇の繰り越し等関係
隊員の休暇の運用について(通達)
⑴規則第47条第4項の規定に基づき計算した自衛官の年次休暇の残日数が30日を超えない場合で1日未満の端数があるときは、これを切り捨てた日数とする。
最大30日まで次年度に繰り越す事が出来ると言いましたが、30日未満であっても時間や分の部分は捨てられてしまいます。
自衛隊には、病気の休みや電車の遅延による遅刻を年次休暇を使って処理させる風習が残っているので、年度末に30日残っていないと偉い人にマークされたりします。
代休
自衛隊では、残業の延長の休日出勤はタダ働きですが、命令に基づく出勤の場合は、代わりの休みを平日に取る事が出来ます。
(勤務時間)第四十三条
自衛隊法施行規則
3 職務上の必要により、自衛官に対し、前項の休養日において勤務を命じた場合には、休養日以外の日において休養させることができる。
(代日休養)
自衛官の勤務時間及び休暇に関する訓令
第11条 規則第43条第3項の規定により自衛官を休養日以外の日において休養させる場合には、勤務時間に応じて次の各号に定めるところにより、休養させることができる。
⑴ 4時間以上7時間45分未満の勤務を命じた場合 4時間の休養
⑵ 7時間45分以上の勤務を命じた場合 1日の休養
あくまで命令や計画上の勤務時間なので実働時間はそこまで厳密ではなく、実働で6時間くらい働けば1日分の代休が貰える事が殆どです。
代休が発生するのは、主に以下の3つの理由があります。
①当直や警衛などの特別勤務
②演習などの訓練
③駐屯地祭や総火演、音楽祭等の各種イベントの作業員
土曜日上番の警衛は駐屯地によって解釈等が違うようですが、警衛は概ね午前9時前後に交代するため「日曜日も0~9時に働いた」という解釈で代休を2日付ける駐屯地が多いです。(駐屯地司令の権限で1日or2日のどちらにしても大丈夫になっています)
部隊では休暇を取りにくいため代休の有効期限が1年間ですが、学校や補給処等の機関では有効期限は8週間となっています。
本来は、休日に勤務を命じた段階で「〇日に働く代わりに▲日に休みなさい」と代休日を指定するのが原則ですが、そんな事をやっている部隊はありません。
特別休暇
特別休暇自体は多種多様な物がありますが、ここでは毎年必ず取得する夏季休暇と年末年始休暇を紹介します。
(特別休暇)第四十九条 隊員の特別休暇は、次の各号に掲げる場合における休暇とし、その期間は、当該各号に掲げる場合の区分に応じて、当該各号に掲げる期間とする。
自衛隊法施行規則
十二 隊員が夏季における盆等の諸行事、心身の健康の維持及び増進又は家庭生活の充実のため勤務しないことが相当であると認められる場合 七月一日から九月三十日までの間における、原則として休養日等を除いて連続する三日の範囲内の期間
十六 年末及び年始の場合 十二月二十九日から翌年一月三日までの期間(隊務の運営に支障がある場合にあつては、十二月二十九日から翌年二月二十七日までの間における六日)
夏季休暇は日付を指定されていませんが、年末年始休暇は12月29日~1月3日と決められています。
「隊務の運営に支障のある場合」とは当直や警衛などの特別勤務しか認められず、年明け締切の仕事を終わらせるために出勤した場合はサービス出勤になります。
また、営内者の残留要員は特別休暇を取得して駐屯地の中に居なければならないので不満の種になっています。
部隊によっては12月29日~1月3日の休日に特別勤務をさせた場合、代休を付けない部隊もありますが、これは違法性が高いです。
このような部隊に所属している隊員は法務官へ相談する事をお勧め致します。
休暇の取得状況
勤務場所の特性に応じて、①機関、②補給処、③部隊の3つに分類しました。
それぞれの代休や年次の取得状況を公開していきます。
長期休暇は、駐屯地司令が毎年定めるので期間に変動がありますが、概ね以下のようになっています。
GW:暦次第で1週間~2週間
夏季休暇:暦次第で9日~2週間
年末年始:2週間前後
それぞれ、休暇期間の前後に「休暇取得奨励日」や「代休取得奨励日」などが設定される事が多く、それらの条件に該当する人は長めに休暇を取る事が出来ます。
休暇取得奨励日:仕事に支障の無い人は休みを推奨する日。
代休取得奨励日:代休を持っている人は使う事を推奨される日。
機関
補給統制本部や各種学校に代表される機関に勤務している隊員は、非常に恵まれている部類に入ります。
日頃の勤務時間はポストによって、5時ピンから22時過ぎまで千差万別ですが、長期休暇時は概ね横並びで全期間取得する事が出来ます。
総火演があるため、補給系に携わる隊員はお盆時期に休暇を取る事が出来ませんが、飛行機やホテルの高い時期を避けて長期休暇を取得できるため、逆に良い!という隊員も少なくありません。
機関には訓練などが無いため代休を溜める機会が殆ど無く、年次を消費して休むので、3月末に年次の残日数が30台の隊員も多くいます。
補給処
補給処も機関ではありますが、部隊と機関の中間くらいの位置付けになります。
こちらも総火演に関係する部署はお盆に休暇を取る事が出来ず、世間とはズレてしまいます。
訓練をする事もありますが土日を跨ぐような長期の訓練をする事は殆どなく、数日や半日程度で終わる事も多いです。
純粋な機関よりは代休が溜まる機会も多く、3月末の年次の残日数は40日前後が多いです。
部隊
自衛隊に入っていない人はここを見てください。
最も配属されている人員が多く、ブラック度も高いのが部隊です。
機関や補給処に勤務できる幸運な隊員はほんの一握りです。
訓練や災害派遣も多く代休が溜まる一方で、非常に多忙なため休みを取り辛く、代休の消化をする事すら難しいです。
長期休暇で代休を消化する事が殆どですが、大抵はまだ代休が余っているため年次休暇を使う事は殆ど有りません。
3月末の年次休暇の残日数は、50日前後である事が殆どです。
営内者(全共通)
自衛隊は有事に備えて、常に一定数の人員を駐屯地内に残しています。
その人員は駐屯地に住んでいる隊員(営内者)で賄われているのですが、長期休暇中も駐屯地を空にする事は出来ないため、駐屯地に残留する要員を決めなければなりません。
長期休暇中も営内者は交代で残留しなければならないため、休暇期間のど真ん中に付けられると嬉しさが半減してしまいます。
また、休暇の真ん中などの皆が嫌がる所は1番下の隊員が付けられる事が多いので、入隊して4年くらいの長期休暇は残留でぶつ切りにされてしまいます。
まとめ
今回は殆どの隊員になじみのある3種類だけの紹介でしたが、骨髄ドナーや人間ドックなどでも取れるようになっていますし、制度上の保障は厚いです。
しかし、そんな保障を享受する暇も無いくらい忙しいのが自衛隊です。
私が部隊にいた頃は、代休が10日を超える事も普通でしたし、私用で休みを取ると誰かが代わりに仕事をしなければならないため、休みを取り難い空気がありました。
また、若手幹部や方面総監部は非常に忙しいため、代休を取得して出勤するような事(ゴースト出勤、幽霊出勤)も当たり前に起きていました。
自衛官には労働基準法が適用されないため、やりたい放題なのが実情です。