令和5年6月14日、自衛隊で非常に重大な事件が起きてしまいました。
射撃検定中の自衛官候補生が銃を乱射し3名が負傷、内2名が死亡するという自衛隊史に残る惨劇です。
どうせ詳細は出さないと思っていたらかなり詳細な状況が判明したので殆ど書き直して予想記事から解説記事にしました。
自衛隊の射撃検定とは
情報保全的にかなりセンシティブなので数字はボカしますし、ふわっとした説明しかできない所も多いですが、ここがわからないと事件のイメージがつかめないと思うので説明します。
自衛隊には基本射撃と応用射撃の2種類があり、自衛官候補生の射撃は基本射撃です。
基本射撃とは●発の零点規整という照準合わせを行った後、姿勢を変えつつ5発1セットの射撃を行い合計得点が高いほど上位の級が付与されるシステムです。
射手は●00m先の的を制限時間内に5発撃たなければならず時間との勝負になるので、純粋な射撃の腕に加えてメンタルの強さなども要求されます。
射撃検定は射撃係幹部の号令で進行し、号令以外の余分な動きをする事は許されません。
銃と実弾を扱う場であるため非常に厳格に進行し、指示された以外の動きをすると即罵声が飛んできます。
事故が起きれば人命に関わるので当然です。
指示は主に「△△まで歩け」「銃を置け」「銃を取れ」「弾を受領しろ」「弾を弾倉に入れろ」「射撃姿勢をとれ」「弾を装填しろ」「撃て」などです。
射撃係幹部の下に複数名の射撃係がおり、射手が号令に沿って動作をしているか逐一チェックしています。
自衛隊では弾を撃った後の薬莢を100%回収しなければならないので、無くさないように網で受け止める役目を担っているコーチが射手1人に1名付きます。
コーチは薬莢回収以外にも安全面などで任務があり、射手が正しく動作を行っているか、ミスをしていないかを逐次チェックします。
イメージ図はこんな感じです。
ヘルメットが赤い人が射撃係
左端にいる青いヘルメットの人が安全係
銃を構えているのが射手で、射手の右側にいる網を持ってる人がコーチです。
射撃係幹部は射場指揮官という1番偉い人と画像外の後ろで全体を見ています。
アイキャッチ画像の右端に写っている赤い人が射撃係幹部です。
画像では射手1名に射撃係が1名付いていますが、射撃係1名が複数の射手を監督する事も多いです。
ザックリとした説明になってしまいましたが、ここまでで射撃検定について大まかなイメージは掴んで頂けたと思います。
よくわからなかったという人はTwitterやコメントで質問して頂ければ可能な範囲で回答します。
事件概要
まだ正確な情報は多く出ていませんが、まずは今のところ出ている情報をまとめます。
確定情報以外は錯綜している物も多く、参考程度に記載します。
確定情報
・事件発生は令和5年6月14日午前9時10分ごろ
・犯人:18歳の自衛官候補生
・被害者:1等陸曹・菊松安親さん(52)3等陸曹・八代航佑さん(25)の2名が死亡、3等陸曹の原悠介さん(25)が重傷
・菊松さんと矢代さんは胸と脇腹、原さんは大腿部に被弾
・防弾チョッキは着用していなかった
犯人の供述
・教官(菊松さん)を狙った
・矢代さんは菊松さんを狙うのに邪魔だったから撃った
・脚を狙ったが胴体に当たってしまった
・殺意はない
取材などで発表されている事
・待機線の位置で弾を込めて射撃をした
・その後振り返って射撃をした
・犯人はアニメが好きだった
・犯人はFPS(TPS)ゲームが好きだった
今のところ裏は取れませんが、詳細に事件の内容を記載している記事を真として推論をしていきます。
事件詳細解説
弾倉は毎回撃ち切って交換するため零点規整用を除いて5発ずつしか入れませんが、記事によると最低でも6発は射撃しているので零点規整用の弾倉を使用した事になります。
射撃の内訳は記事のイラストを引用します。
一般隊員の場合は待機線で待っている射群(同時に射撃をするグループ)には1名しか射撃係が付かない事が殆どですが、新隊員の場合は人数を増やす事も多いです。
しかし、現段階で判明している情報ではマンツーマンや複数の射撃係が付いていそうな感じはありません。
待機位置から射撃ができたという事とも辻褄が合います。
なぜ事件が起きてしまったのか?
射撃検定の説明でも書きましたが、実弾を扱う場合は非常に厳格に管理されるのでこういった事件が起きる余地は少ないのですが、いくつか指摘していきたいと思います。
新隊員から目を離し過ぎている
4月に入隊したばかりの新隊員はまだ2ヶ月程しか経っておらず、生活環境が変わったり訓練を施されたりしてストレスがかかっている事は誰でもわかりますよね?
そんな精神的に不安定になっている事が予想される隊員に実弾を持たせる事は非常にリスクがあります。
今回の射撃検定の進行は一般隊員とほぼ同様であり、新隊員の事を過大評価or信頼し過ぎているという印象を受けました。
新隊員の事は「人語を喋り、獣にしては少し優秀な生物」くらいの認識をしておくのが適切で、躾も済んでいないのでいつ手を噛みにくるかわかりません。
昨今の情勢ではこのような事を言ったら大炎上しますが、それを表に出さないのが処世術という物です。
例えばマンツーマンにして直接的には言わなくとも「お前の事は常に監視してるぞ」というプレッシャーを与える事が抑止になります。
対外的には「初めての事なので不安全事項を起こさないようサポートする為にマンツーマンでコーチを付ける」等と安全管理を盾にすれば上司も世間も文句は言えません。
つけるコーチを格闘検定特級保有者にすれば至近距離で小銃を持った敵を制圧する術に長けているので、新隊員程度なら変な気を起こそうとしても赤子の手を捻るくらい簡単に制圧できます。
格闘検定特級保有者が少ないのがネックなので、現実的には「屈強な男性隊員を付ける」くらいが妥協点でしょうか…
管理側の危機管理が甘い
上でも少し書きましたが、新隊員に銃と実弾を持たせる事自体がリスクとなります。
そもそも、自分が無手で他人が銃を持っているという状況は非常にリスクが高いです。
特に小銃は非常に強力な武器なので警戒していても2mくらいまで近寄られなければ無敵に近いです。
詳しくは言えませんが、規定では小銃を所持している相手にはこちらが小銃未満の武器しか無ければ基本何をしても罪に問われる事はありません。
何をしても良いのですが、即座に何かをする覚悟が足りていない自衛官が殆どです。
この辺りは次の項で個別に書きます。
最近の新隊員にヤバいのが多いなんて常識みたいなものなので、管理側の認識の甘さが浮き彫りになった事件だと思います。
上の項でも書きましたが「新隊員は躾の済んでいない獣」という認識で丁度良いです。
リスクのある行動をしなければならない時は相応に備え、万が一の時にも対処できるだけの意識付けをしておけば今回の事件は起きていませんでした。
緊急事態に対処する心構え不足
かなり厳しい事を言いますが、今回の事件は初動の対応が悪すぎました。
銃を持った相手がおかしな行動をした場合、必要なのは声掛けではなく実力行使です。
記事によると待機線で装填した犯人に対し「お前何やってんだ!やめろ」と声をかけたそうですが、指示も無く実弾を装填するような狂人に対して必要なのは装填しようとした時点で全力で距離を詰め制圧する事です。
狂人に声をかけたら注意を引いてしまい撃たれるという事はなんとなくわかって頂けると思います。
先述の通り小銃は至近距離での取り回しに難があるので、装填されてしまったとしても安全装置を外し射撃をするまでに素人が思っているより時間がかかります。
射場は狭いのですぐに反応できれば間に合った可能性は高いです。
私のような格闘検定特級持ちなら状況によっては無傷で取り押さえる事も出来るかもしれません。私なら安全に取り押さえるのが無理そうだったら首の骨を折るか相手の小銃で仕留めます。
一般隊員でも銃を掴んで銃口を下に向けさせる事は出来るでしょうし、その間に囲んでボコれば対応できたと思います。
こういった緊急事態に迷わず対処をする為には、訓練を積むよりも危機感を持つ事の方が大切で殆どの隊員はこれが欠けています。銃を持った相手はやらなきゃやられるんです。
良くも悪くも銃に慣れてしまい、銃は怖い物という認識が薄くなっています。
そういった隊員に今回の件はかなり衝撃だったと思います。
これは再発防止と言うよりは再発しそうになった時の対処方法ですが、おかしな事をしようとした時点で制圧する意識付けとその行動を迷いなく行える覚悟が必要です。
マスコミの指摘は正しいのか?
結論から言うと的外れなので潰します。
今後の報道で増えていくかもしれません。
防弾チョッキを着用していないのは危機感が無い
ライフル弾に対して防弾チョッキは無意味です。
何ならテッパチ(ヘルメット)すらキレイに当たれば貫通します。
有事の際に支給されるという分厚いプレートを入れたとしても近距離では意味を成しません。
防弾チョッキを着ていたとしても、至近距離なら胸側のプレートと人体と背中側のプレートを貫通し2人目のプレートでようやく止まるか止まらないかといったレベルの強さがあります。
皆さん漫画の見過ぎで銃を過小評価していますが、ライフル弾というのは地球に存在する物質で貫通出来ない物はありません。
かなりの硬度や強靭性を誇る物質でも貫通されないために必要な厚さはかなりのもので、どんな物質でもフライパン程度なら数枚重ねても余裕で貫通します。
その為、射撃検定における防弾チョッキは”枷”としての意味合いが強く、射手が実戦で射撃をする状況に近付ける程度の意味合いしかありません。
防弾チョッキを着用しての射撃は、しない場合に比べて難易度が少し高くなりますから。
これらの事から射手以外が防弾チョッキを着る意味は無いので、防弾チョッキを着用していない=緊張感が無いという指摘は的外れです。
むしろ、射場内は暑くなり水分を摂る時間も余りないので着用は安全管理的にマイナスです。
まとめ
- 新隊員に銃を持たせるリスクをしっかりと考える
- 万が一の事が起きないように予防する体制を整える
- 一般隊員まで万が一の事が起きた時に即応できる心構えを浸透させる
再発防止にはこの3点が特に重要です。
元自衛官の風俗嬢が「防弾チョッキも着用しないのは平和ボケ」と言ったそうですが、平和ボケの部分だけは私も同意です。
同僚だろうと凶行に走ろうとしたら処理して止めるという意識が無い事が平和ボケだと思います。防弾チョッキなんかより、一般隊員への再教育が必要でしょう。
最後に
厳しい事も言いましたが、定年間近の菊松さん、未来ある原さんと矢代さんが犠牲になった事は非常に残念です。
原さんは亡くなっていませんが、一般的に大腿部の銃創は筋肉などがズタズタになる事が多く、以前の状態に戻す事はほぼ不可能です。
私は今までずっと「自衛官の待遇を改善しろ」と言ってきましたが、それは甘くしろと言っているのではなく「業務内容に見合う給料にしろ」という意味です。
何をどう取り繕おうと自衛隊は軍隊なので鉄の掟や厳しい上下関係などは必要です。
それが無いと弱いだけでなく、有事の際に略奪などを働きます。
また東日本大震災のような事が起こった時に、被災地でネコババする自衛官とか嫌じゃないですか?私はイヤですし、その現場を見たらその場で矯正します。
緩くする事が出来ない以上、待遇を改善して少しでも良い人材を獲得していかなければ20年後くらいには自衛隊は崩壊するでしょう。
世間の風潮的には自衛官の待遇改善に好意的ですし、この機を逃さずしっかりやって頂きたいです。