元関係者が、自衛隊の高校である高等工科学校(旧:少年工科学校)について、給料から私生活まで公開します。
防衛大学校はそこそこ知名度がありますが、こちらはわりとマイナーな学校です。
本題に入る前に、筆者の魂の叫びを聞いてもらえるとありがたいです。
入学しようか悩んでここを見ている中学生男子の皆さん「国防の為に人生を捧げる」くらいの覚悟がある方は別ですが、高工校に入るのはお勧めしません。
お金が欲しいなら、自衛官候補生として入隊すれば4年で奨学金完済できるくらい稼げます。この件に関して書いてある記事はこちら
長い人生に3年間しかない「高校生」という期間を自衛隊に捧げても良いのか、本当によく考えながら記事を読んで下さい。
息子さんを入学させようか悩んでる親御さんは、息子さんの幸せを願うなら絶対にやめてください。本当にお願いします。
さっさと家から追い出して楽をしたいのなら、入学させた方が良いでしょう。
高等工科学校の沿革と概要
神奈川県三浦半島の先っちょにある京浜急行の終点、マグロで有名な三崎口からバスで約20分の武山に所在する自衛隊の高校です。赤丸の範囲内は全て武山駐屯地です。
自衛隊の装備品を扱う人材を育成する目的で発足した自衛隊の高校で、以前は海自(江田島)と空自(熊谷)にも存在していましたが廃止され、現在は陸上自衛隊だけに残されています。
通常の高校生と同じ内容の授業を受けつつ、自衛官として必要な訓練や服務規則などを学び、卒業後は全国に散らばりそれぞれの陸曹教育隊で教育を受けた後、部隊に配属され3曹となります。(定年まで勤務できる階級です)
以前は技術者を育てる組織でしたが、高等工科学校になってからは普通科などのいわゆる「首から下」の部隊にも配属されるようになったため、存在意義が薄れてきています。
「成績上位一桁くらいを維持している」かつ「生徒会長や学級委員などを務める」などの条件を満たすと防大の推薦入学枠が獲得できます。(毎年10名程度)
ちなみに防大と違って女子は入学できません。
もしこの学校に女子を入学させると、餓えた獣の群れの中にウサギを放り込むようなものなので、1年経たずに女子が全員妊娠する事が容易に想像できます。
在学人数
1学年250人×3でおよそ750人が基準となっていますが、途中で退職する人数を考慮して採用しているので1年生290人、2年生280人、3年生270人くらいの人数です。
各学年ごとに9個の区隊(クラス)を作り、人数が均等割りされます。
各区隊には区隊長(1尉)が1人と班長が3人(1曹、2曹、3曹が各1人)付き、生徒の指導に当たりますが、区隊長&班長は人格にムラがあるので優しい人に当たれば天国、厳しい人に当たると地獄が待っています。
また、普通の学校と同じように進級時にクラス替えがあり、1年でシャッフルされます。
1年生の時はわりとザックリ振り振られますが、2年生以降は成績、体力、素行、人間関係などを考慮し、偏りが無いように調整されます。
授業
3年間、国語や数学等の科目から調理実習や音楽等まで普通の高校でやるような一般科目と、自衛隊の規則や戦闘に関する勉強をします。
1日あたり8コマに割り振られていますが、基本的に最後の1コマは部活動で固定されています。
卒業時に横浜修悠館高等学校の卒業資格が貰えます。
待遇
3年間学生手当(毎月約10万円、ボーナスとして6,12月に約20万円)が支給されますが、厚生年金や部活動費や各種雑費の支払で手残りは月6万円くらいです。
給料は、三浦藤沢信用金庫に口座を作らされるのでそこに振り込まれますが、学生に金銭感覚を養わせ資産を貯めさせる目的で、月に使える金額は2万円程度で残りは強制的に貯金させられます。
(金銭出納帳をつけさせられ、通帳の残高点検などもされます)
全寮制(強制)で、家賃、食費、光熱費、水道代、学費など全てかかりません。
ちなみに一応公務員扱いなのでアルバイトや兼業などは出来ません。
また、自衛隊に入れば免許がタダで取れるという話もありますが、高工校に入学している期間は運転免許を取らせて貰えません。(自腹も不可)
卒業して部隊に配属されてからの免許取得になります。
自衛官に共通する事項ですが、自衛隊病院を受診すれば医療費はかかりません。
しかし、高工校の生徒が受診する事になる自衛隊横須賀病院は未熟な医者が多く、CTもロクに見られない医者が多くて、良い評判を聞いた事が有りません。
訓練
訓練は1週間通し規模の訓練が2年生に1回、2週間通し規模の訓練が3年生に1回あります。
また、2年生から実弾射撃の訓練も入ってきます。
未成年の軍人が訓練で実弾の射撃をできるのは、先進国で日本だけとなっています。
2年生は訓練の一環で総合火力演習の予行演習を現地で見る事が出来ます。
いわゆる一般向けに公開されている本番はパフォーマンスの意味合いが強く、予行演習より発射弾数が少ないです。貴重な夜間演習も見られるので数少ない特典と言える部分です。
体力検定というものが年に1回あり、種目は①腕立て伏せ②腹筋③3,000m走です。
入学時に体力や筋力が余り無い人はかなり大変です。
体力検定の合格基準などはコチラの記事をご覧下さい。
腕立伏せと腹筋は2分で50回弱程度、3,000m走は14分35秒で合格ですが、最低合格基準だと怠け者扱いされるため、基本的には1級か2級を目指さなければなりません。
運動系の部活に必ず入らなければならないため、勉強と部活を両立出来るだけの体力が求められます。部活の一覧はこちらからご確認ください。
隊内での私生活
学年ごとに6人部屋が割り当てられるので、トイレ以外は24時間誰かと一緒にいる生活になり、一人が好きな人は物凄くストレスを感じる環境です。
またゴリゴリの体育会系で上級生に絶対服従なので、縦社会が嫌いな人のストレスは半端では無いと思います。
髪型は坊主が基本です。髪の毛が長いと上級生に目を付けられ色々とやりにくくなるので、伸ばす人はほぼいませんが、上級生になると少し緩和します。
(下級生は1枚目くらいの長さが基準で、髪を指で挟んではみ出たらアウトです)
制服や迷彩服は支給されますが、制服や迷彩服を着る時に必要な肌着、靴下、迷彩Tシャツなどや、洗剤、歯ブラシ、歯磨き粉、石鹸、シャンプー&リンス、靴磨き用の靴墨などの消耗品は自分で買い揃える必要があります。
私物の所持
上記の通り6人部屋のため、一人あたりのスペースは非常に狭い事もあり私物類の所持は特に制限が厳しいです。
禁制品
危険物:刃物、ガスガン、有機溶剤類
大型物品:ギター等の楽器類、テレビやデスクトップ型PCなど
車両:自転車、自動車、バイク
また1年生は携帯やPCを持つ事が許されず、校内にWi-Fiはありません。
高価な私物は、組織内部では貴重品ロッカーと呼ばれている、施錠できる50cm四方程度の大きさのロッカーに入れなければなりません。
一人に1つスタンドロッカー(右)と靴箱(左)が貸与されます。(施錠不可)
スタンドロッカーは幅90cm、高さ179cm、奥行51cmです。
靴箱は6足しか入りませんが、半長靴×2、短靴(制服用の靴)×1を入れなければならないので実質3足です。
大きさの比較のため、空の2Lペットボトルを置いています。
あらゆる私物はこのロッカーと、シングルベッド下のスペース、貴重品ロッカーに入る量しか持てません。
土日&祝日
休日も完全に休む事は出来ません。点呼は通常通り行いますし、部活もあります。
むしろ部活は平日よりも長時間の練習があるので、平日より疲れる事も多いです。
また、平日に忙しくてキチンとかけられないアイロンがけや部屋の掃除なども休日にやる事の一つです。
部屋や廊下の床は、常にピカピカにしていないと班長&区隊長や先輩方のご機嫌を損ねてしまう可能性が有るので常に気を遣います。毎週ポリッシャーで床を綺麗にし、ワックスで光らせます。
クレンザー(研磨剤)でワックスと汚れを削り落とし、水拭きで綺麗に研磨剤を取り除き、ワックスでピカピカにしますが、卒業する頃には清掃業者顔負けのスキルが身に付きます。
例として公式Twitterから教場の清掃風景の写真を持ってきましたが、生徒の生活する隊舎も同じように清掃します。
大抵の部活は土曜日の午前中に練習が有るので午後に床掃除やアイロンがけをすると一日が終わってしまいます。
大抵の生徒は土曜日に頑張って日曜日に外出しますが、土曜日に丸一日、日曜日も午前中練習する部もあります。(ラグビー部とか)
外出
外出は可能ですが、以下の条件があります。
土、日、祝日のみ
単独行動禁止
9時~19時半までの日帰りのみ(学年によって最大30分程度延びる)
最寄りの繁華街である横須賀中央まで電車やバスで片道40分程度かかるため、実際に遊べる時間は10時~18時くらいです。
また、外出前に部屋の整理整頓や制服のアイロンがけ、靴磨き等を済ませて点検を受けなければいけません。
不合格だと合格するまで何度でもやり直しとなるので、一緒に遊びに行く予定だった同期に迷惑をかけるor見捨てられます。
主な外出先は近場の横須賀中央や横浜が多いので、出先で先輩や教官などに遭遇する事がしばしばあります。(面識が無くとも雰囲気でわかります)
また、1年生は私服外出が認められません。
出先で着替えたりしてるのがバレたら、シメられた上に外出禁止になるので絶対にやめましょう。
外泊
外泊については直系血族の冠婚葬祭等の極めて特殊な例を除き、GW、お盆、年末年始、春休みの長期休暇時しか認められていません。
休暇
夏季休暇と年末年始休暇がそれぞれ2週間程度あり、春休みも1週間程度あります。
しかし、これらの長期休暇も部活の合宿があるので全部休める訳ではありません。
部活によってバラつきがありますが、半分程度は部活の合宿に使われると思った方が良いでしょう。
まとめ
とにかくやる事が多く、3年間は半端な芸能人よりも遥かに忙しい生活になるので覚悟が必要です。
1日のスケジュールを知りたい方はニコニコ大百科の記事を参照してください。
余りの自由の無さや忙しさから「俺達YTS、横須賀 武山 少年院」という自虐ネタがあるくらいです。
(少工校時代はYouth Technical Schoolの頭文字でYTS)
(現在はHigh Technical Schoolなので略称はHTS)
高校無償化の制度が出来るまでは、親の経済事情などで高校に行きづらい生徒が入学していましたが実質無償化でその層の需要は無くなりました。
高卒の資格は貰えますが、在学中に防大以外の大学の受験は出来ないため、卒業と同時に退職しても一般の大学には1浪しないと入れません。
また極一部の生徒を除き、3年間で学力が全国の平均よりも下に落ちます。
勉強以外の部分が忙しいため仕方のない事ではありますが、「入った時は金の卵、出て行く時は腐った卵」とはよく言ったものです。
1番伝えたかった事(ここだけでも読んで!)
主に金銭的なメリットがありますが高工校に行くよりは、普通の高校に行ってバイトを頑張った方が忙しくないし稼げるし何よりも自由があります。
普通の高校に行って、彼女作ってキャッキャウフフした方が絶対に良いよ!という事を皆さんに伝えたかったのです。
(JKと合法的に付き合えるのはDKだけですし)
外出や様々な趣味も制限され、青春をドブに捨てるようなものです。
大学に進学してサークル飲みでJDと仲良くなり…なんてことも出来なくなってしまいます。
失われた青春は2度と戻りません。
高工校に入ってしまったら殆どの人はそのまま自衛隊に就職し、定年まで働く事になります。
自衛隊は基本的に忙しいですし、変則的に特別勤務や長期の訓練もあります。
自衛隊の定年は基本的に54歳で、定年延長もありません。
年金の支給は65歳からで、働かなければ11年は過ごせません。
54歳で良い再就職先を探すのは困難を極めます。
再就職をしなかったとしても、次に自分の時間がたくさん取れるようになるのは50代後半です。
高校生や大学生なら許された無茶や失敗、挑戦は出来ない年齢です。
高工校に入るのであれば世間一般の学生の楽しみを全て捨て、一生を自衛隊に捧げる覚悟を決めて入学してください。
ニコニコ大百科
公式なページではありませんが、非常によくまとめられていたのでリンクを貼っておきます。内容の正確さは私が元関係者として保障します。
記事の編集者は間違いなく卒業生です。
YouTube
名乗ってはいませんが、間違いなく高工校の生徒のチャンネルです。
場所は恐らく武山駐屯地内の北地区にある方の体育館です。
高等工科学校公式HP
高等工科学校の公式HPになります。
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