出発前にやる事
ここからは、出発に至るまでの流れについて書いていきます。
出発2~3日前
認識統一
出発前に今回の訓練のSOP(設定)を、部隊全員で頭に叩き込みます。
(お芝居の設定のような事を、自衛隊では想定やSOPと言います)
想定の例 (雰囲気だけ伝われば良いのでツッコミは無しでお願いします。)
我の現在地は朝霞駐屯地。
敵勢力は、およそ一個機械化連隊。
敵は大宮駐屯地を占領後、国道5号線沿いを都心方面に進行中。
練馬駐屯地に一個機甲師団が集結中であるが、後1日程かかる模様。
我は、荒川河川敷沿いに陣地を構築し、機甲師団の集結を支援する。
大体こんな感じですが、訓練には色々な想定があり、主に攻撃と防御があります。(想定例は防御で、敵を1日荒川河川敷で食い止めろという意味です)
戦術の解説を始めると、記事が3本書けるくらいの量になりますので割愛しますが、攻撃はドンドン前に出て攻め、防御はガッチリ守って敵の攻撃を食い止めるくらいに思ってもらえれば大丈夫です。
ともかく、攻撃か防御でやる事が全然違ってきます。
全員がちゃんと想定を理解していないと正しい行動が出来ないため、出発前に全員で覚えます。
出発前日
銃の脱落防止
銃の部品が落ちないようにテープでぐるぐる巻きにします。
訓練中に銃を落とそうものなら病むくらい捜索させられますが、部品や装具でもかなり大規模な捜索をさせられるため、全員でちゃんとやります。
車両の整列
荷物を積み込んだ車両を出発順に並べます。
駐屯地から演習場までの移動は先頭から最後尾まで車の順番が指定されていて、出発直前に色々な所から車が集まってくるとバタバタしてしまうため、前日の内に順番通りに整列させておきます。
個人の荷物の準備
自衛官は非常時に備えて常に携行物品として指定されている物を、中身が分かるように表示しジップロックで個別に包装して背嚢に保管しています。
携行物品に加えて訓練で持って来いと言われた荷物だけを詰め、装具の取り付けや脱落防止などもしていきます。
装具は着ける順番などが決まっているので順番通りかつ綺麗に着け、迷彩服もシワ1つ無くアイロンをかけます。(イメージ図)
また、訓練のために買ってきた食料や着替え等を、背嚢とは別の衣嚢と呼ばれるバッグに詰めていきます。忘れ物をすると訓練でキツい思いをする事になるので、毎回入念にチェックしてから車両に積み込みます。
訓練当日(演習場に出発するまで)
当日は朝から隊容検査という物を受けます。
隊容検査の内容
左上:任務の確認(訓練の想定をちゃんと覚えているか)
左下:荷物検査(個人の携行品は指定された物だけ持ってきているか)
右上:装面動作(マスクを規定時間以内に着けられるか)
右下:車両検査(車両に積載されている荷物はリスト通りか)
任務の確認
今回の訓練の想定を覚えているかを確認されます。
「今どこにいるのか?これからどこに行くのか?」などを聞かれますが、勉強不足でわからない質問が来ても「忘れました!」と答えるのが、お約束となっています。
(あまりにも忘れていると怒られます)
荷物検査
「事前に指示された物を忘れていないか」「ジップロックに入れて防水処置はされているか」を確認されます。
併せて「指示されていない物を持ってきていないか」もチェックされます。
飲み物等の必要最低限の物も「水缶持ってきているから水は有るだろう」という理屈で、持ってきてはいけない事になっています。
そのため点検を受ける背嚢と、食料などの色々な物が入っている衣嚢を別にして、衣嚢は車に積んだ荷物の目立たない所に隠しています。
(もしも夏場の訓練中に水しか飲まなかったら、ミネラル足りなくて倒れます)
防護マスクの装面動作の確認
自衛官は、8秒以内に防護マスクを装着出来なければならない為、出発前に全員出来るかの確認をされます。
毒ガス等を検知した瞬間に呼吸を止め目を瞑らないと、肺や目の粘膜から侵入されるため、目を瞑って息を止めたまま8秒以内にマスクを装着します。
なぜ8秒以内かというと、激動時に呼吸を止められるのは8秒が限界と言われているからです。200mくらい全力疾走した後に、何秒息を止められるかを試して頂ければわかると思います。
車両検査
事前に積載する荷物のリストを提出するので、実際に積まれている荷物と提出されたリストを照合します。
統裁官(評価する人)も食料等をこっそり積んでいる事は内心わかっているので、そういった物が隠されていそうな所は確認しません。
また、移動中に荷物を落としたり、荷物が崩れて乗員がケガをしたりしないようにしっかり固定されているかも確認されます。
上記4種類の検査が無事終わったら、演習場に向けて出発します。
準備編まとめ
山に行く事はかなり大荷物になる上、準備だけでも非常に大変な事がわかって頂けたと思います。訓練中は足りない物が出ても買いに行く事は出来ない為、何でも多めに買っていく事が多いです。
足りない物は物々交換で入手しますが、富士山の山小屋のように山価格(通称)となっていて、一般的な市場価格よりもボッタくられます。
傷んだ物の交換や消耗品の買い足し等、毎回それなりの出費になるのですが、山は手当が出ないので毎回自腹です。
隊員個人で使う物はまだしも、車両偽装資材や指揮所関連の資材は官品を作って支給するべきだと思っていました。
コメント