自衛官としての心構えとあるべき姿

東日本大震災

 アイキャッチは自衛隊公式Facebookから

 さて、毎年恒例ですが3月11日前後には東日本大震災関連の話題がよく出てきます。
 今年は小学生による高齢者の避難訓練が炎上して話題になりましたね。

わたしたちが主役!地域防災を支える高知の子どもたち
南海トラフ巨大地震で最大30メートルを超える津波が想定されている高知県。ここでは子どもたちが地域防災の主役になっています。地域や専門家と連携して避難訓練を実施し…
津波避難、高齢者らタワーへ運べ!黒潮町児童が担架で訓練 | 高知新聞
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 炎上を受けてNHKの記事は修正されているようです。

 もう、これは完全に間違いです。
 このようなガイドラインを定めている自治体が有ったら、明日にでも改定して下さい。
 老人は言う事を聞かないだとか、子供(自分)の命が優先だとかそういう事以前に、重荷を背負わせてしまいかねない行動は絶対にさせるべきではありません。

 これに関連して、現役の頃から思っていた「自衛官としてあるべき姿」について思う所が有ったのでお気持ち表明します。
 話の流れが唐突かもしれませんが、最後まで読んで頂ければわかると思います。

 将来自衛官になりたい方、試験に合格してこれから入隊する方、現役の隊員などは特に心に留めて欲しいと思います。

自衛隊の現状

 正直に言いますと、昔に比べて若年隊員や壮年隊員の低体力化は著しく悪化していると言わざるを得ません。

 いわゆる「シメ」がパワハラにあたると解釈され禁止された事により、半ば強制的に鍛えられていた新隊員達は今では一般人に毛が生えた程度の体力の隊員が多く、職務に対する意識の差がそのまま体力の差に直結しています。

 課業外に先輩陸曹などが主催してみんなでトレーニングなどと色々と工夫して体力向上の努力をしていますが、参加を強制出来ないのでいくら言ってもやらない隊員はやりません。
 そして、参加しない隊員に限って低体力です。

 また、出して良い数字かわからなかったので出しませんが、自衛隊の健康管理関連の資料によると自衛官は国民全体の平均よりも肥満が多く問題になっています。
 石ちゃんみたいな一般人でも太り過ぎなコロンコロンした40代男性隊員がどの駐屯地にも必ず何人かいる始末です。

 戦闘部隊が所属する駐屯地だと1日の摂取カロリーが3000kcalになるように食事が出される事や、訓練などで民間人よりは摂取しなければならないカロリーが多く加減が難しい事、宴会などが多く若い頃の食習慣そのままで年齢を重ねやすいなど少し考えれば納得できる理由はいくらでも出てきます。

 その為、若手~中堅以外は低体力の隊員が多く、正直に言えば私は見下していましたし、自衛官として不適格だと思っています。
 「そこまで言わなくても…」と思う方も多いかもしれないので、そう思うに至った経緯をお話しします。

東日本大震災での経験

 東日本大震災の時、私は翌日には現地入りしていました。
 主に行方不明者の捜索活動をやっていましたが大きい余震が何度も有り、その度に高台に登って安全が確認できるまで待つ。という事を何度も繰り返しました。

 今考えれば本震よりもずっと規模の小さい余震で、本震で津波が来たラインより遥か上まで避難するなど「あつものに懲りてなますを吹く」といった感は否めませんが、津波のインパクトがあまりにも大きく「バッファを取らない」という選択に自分の命をBETできる人はいませんでした。

 行方不明者の捜索活動中に明らかに避難を要すると思われる規模の余震は2度でしたが、どちらも避難誘導は非常に大変でした。

 1度目は海岸から殆ど離れていない場所だったので山まで逃げる事が出来ず、小高い丘に避難する事になりました。しかし、地震で道が崩れている所があり、足腰が弱い老人は登れそうにありません。

 イメージ的には傾斜40度くらいの崩れかけの崖で、四つん這いになって張り付けば移動できるくらい、女性や子供でも身体的な問題が無ければ難なく登れますが老人には厳しい。それくらいの難易度です。

 幸い登り始めてすぐのところが崩れており高さも2mほどだったので、我々が下から手を伸ばして掌で崖に足場を作り、その上を登ってもらいました。
 全体重がかかる訳ではありませんでしたが、我々が震えたりすると足場が揺れて進めなくなってしまい余計に時間がかかるので、微動だに出来なかったのが辛かったです。

 2度目は比較的山に近い場所だったのですが、被災者のかたが多かった事と、登りが緩やかだったので移動距離が長かった事が大変でした。

 土地勘が無いので先頭は地元の男性に任せて我々は誘導を担当しましたが、特に体力的に辛かったのが道沿いにある民家への声かけです。

 老人が多い地域なので耳が遠い人が多い事を考慮して一軒一軒ドアを開けて声かけをするように言われていたのですが、民家の数が多く最後尾を担当していた私は本隊から離され過ぎてもいけないので、ほぼ常に声を出しつつ走り回っていました。

 幸い2回とも津波は来なかったので良かったのですが、人数が自衛官<要介護者の場合、救う命を選ばなければならなかったかもしれないと思うとゾッとします。

自衛官としてあるべき姿

 自衛官は災害派遣時に自分の命を最優先にするように言われます。
 理由は色々ありますが、自衛官1人の命を犠牲にしなければ国民1人の命を救えないような状況になってしまった場合、自衛官を犠牲にしてその1人を救うよりも自衛官が犠牲にならなくても助けられる他の命を救った方が最終的に救われる命が多くなるからです。

 しかし、当然ですがギリギリまで救う努力はします
 戦闘に巻きこまれる、地震による建物の倒壊などとは違い、津波には比較的時間の余裕があり、適切な対応が出来れば助かる確率は高くなります。

 余程運が悪くなければ地震が起きた時点で完全に詰んでいる場合は考えにくく、地震で転んで動けなくなってしまった被災者の方がいても背負って歩き回れる体力が有れば救う事は可能です。

 逆に言えば十分な時間が有るにもかかわらず、人を1人背負って避難できる体力が無くて救えなかったならそれは怠慢だと私は思います。

 標準体型の日本人を背負って歩く事は、少し鍛えれば難しい事ではありません。
 何のために自衛官の定年が50代半ばと非常に早く設定されているのかよく考えるべきです。

 自衛官だけでなく、大切な人がいる人は身体を鍛える事をお勧めします。
 自衛隊は南海トラフや首都直下地震に対する訓練を毎年行い、対応マニュアルを改善し続けています。
 もはや無視できる程小さいリスクではなく、生きている内には起こるものとして備えておくべきだと思います。

 自分語りですみませんが、私は自衛隊を退職してからも各種トレーニングを欠かさずやっています。正直面倒だと思う事もありますが、いざという時に「やっぱりやっておけば良かった…」と後悔するよりは余程良いので続けています。

 無論、私は既に自衛隊とは関係の無い一般人です。
 私の考えを現役の隊員に強要するつもりもありませんし、そもそも出来ません。

 しかし、実際に事が起こった時に被災した国民の皆様から見たら、自衛隊は文字通り最後の希望です。

 大地震が起こり津波が来るかもしれないという状況で、転んで足を挫いてしまった被災者に目の前で「足を捻って歩けない、でも死にたくない!連れて行ってくれ!」と言われた時に「貴方を背負って逃げるだけの力が無いから無理です」と言って見捨てるんですか?

 見捨てた後に津波が来なくて結果的に助かったとしても、その方は一生自衛隊を信じてくれないと思います。

 また、個人差が有りますが助けられなかった場合、傷として残りやすいです。
 被災者の方々の訴えは必死なので、否が応でも気持ちは伝わります。
 気持ちが伝わってくる分、良くも悪くも結果が心に残りやすいです。

 良い結果は成功体験として、悪い結果は傷として。

 冒頭で小学生に老人の避難をさせるべきではないと言ったのもこれが理由です。
 失敗した時のリスクがあまりにも大きく、子供に背負わせる重さではありません。

 H×Hハンター ハンターというマンガの試験で大切なものの2択を迫る問題が有ります。

 問題としての正解は”沈黙”なのですが、出題者の意図は「その状況を想定し備えさせる」ものでした。

 繰り返しますが、私はハンター試験の試験官でも何でもないですし、皆さんもハンター試験の受験生では無いです。
 ここに書いてある事はすべて私の”お気持ち”で、この記事を読んでどう思うのも自由です。
 この記事を読んだ貴方が実際にそういう場面に遭遇しても、成功体験を積むor傷を負うのは貴方であって私ではないですし。

 ただ、現役に限らず一般の方でも身体を鍛える事は非常時のリソースが増える事に直結しますし、選択肢も増えます。
 健康にも良いので少しでも思う事が有ったら運動を始めてみるとかしてもらえると記事を書いた甲斐が有ります。

 最近は自衛隊が神聖視され過ぎているきらいがありますが、身体を鍛えるなんて軍人なら当然ですし、米軍は将官クラスでも体力テストでバディを背負って走るという事をやっています。

 繰り返しますが、少し鍛えれば誰でも出来る事でそんなにハードルは高くありません。
 強くてカッコイイ自衛隊という国民の負託に応える事が服務の宣誓を行った自衛官としての使命なのではないでしょうか。

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