【半忘備録】自衛隊の演習場訓練について

訓練風景 自衛隊

 現役時代に1番辛かった「演習場で実施する訓練」(通称:山)でやっていた事を忘備録を兼ねて書き綴っていきます。

 「自衛官はこんな訓練をやっているのか!大変だなぁ…」と思って頂けたら幸いです。この記事を読んでる自衛官のご家族様は、山が終わって帰ってきたお父様の足が納豆とキムチと牛乳を混ぜて腐ったような臭いを放っていてもその分苦労をしているので、余り邪険にしないであげて下さい。

※個別に記載するのは冗長になるのでここに纏めて記載します。
 制服を着用し勤務中の公務員に肖像権は認められていない判例があります。そのため本来目線は不要なのですが、個人サイトのため配慮して入れています。
(出典元のHPには加工前の写真があります)アイキャッチは自衛隊公式Twitterより

何のために山をやるのか?

 2年に1回、部隊検閲という「その部隊がどれくらい訓練していて実際に戦闘行動ができるか」のチェックを受けるために山に行きます。(※山に行く=演習場で訓練をする)
 また、部隊の評価は部隊長の評価に直結するので、高級幹部の人事評価にも繋がります。

 例えば、連隊検閲であれば連隊長が評価をされる側になり、連隊長は各大隊長を指揮し命ぜられた任務を達成できるように努めます。

 前述のとおり検閲の結果は部隊長の人事評価に直結するので、ここでちゃんと出来ていない隊員が出ると連隊長の評価が下がり、出来ていない隊員が所属する大隊長や中隊長の評価まで下がりかねません。
 そのため、上司に見せる前に各部隊長は、自分で事前に確認をするのが普通です。

 10月に連隊検閲が予定されている場合は、連隊検閲で連隊長に恥をかかせないように9月に大隊検閲をやり、大隊検閲で中隊長が恥をかかないように8月に中隊で訓練をするというイメージです。

 検閲の有る年は事前訓練(1~3回)→大隊検閲→連隊検閲と、どんどん規模が大きくなっていき山の回数も多くなりますが、検閲が無い年でもなまらないように何度か山に行きます。

 訓練の評価は方面隊によって若干違いが有るようですが、上から「優秀」「概ね優秀」「優良」「概ね優良」「良好」「概ね良好」「可」「概ね可」「不可」となっていて「不可」以外は合格です。
 しかし、「概ね良好」以下の評価はやり直しとなる場合が多いです。

航空自衛隊の教育訓練の検閲に関する達

物の準備

官給品の準備

 まずは担当者と調整をして、官給品(官品)を借ります。

借用する官品一例
業務用天幕2型、整備用天幕、宿営用天幕、毛布、寝袋、エンピ(シャベル)×10、つるはし×5、偽装網、ストーブ、発電機、コードリール、有刺鉄線、ワイヤー、U字杭、携行缶(ガソリン、灯油)

偽装網

 偽装網とは、網に迷彩柄の布が付いていて、網で覆った物を隠すための物です。バラキューダ、通称バラキューと呼びます
※偽装:自然界で目立つ人工的な色や物を目立ちにくくする事。

部隊が独自に所有している訓練資材の準備

 また、自衛隊から貸与される官品だけでは全く足りませんので、部隊独自に作成して代々受け継いでいる訓練用の資材の整備や点検もします。(作成&修繕費は自腹です)

官品以外に部隊で保有している訓練資材一例
偽装網を使って車両などを偽装する際に使用する3~5mくらいの竹、なたかまのこぎり、砂入りのプラスチックハンマー、園芸用スコップなどの施設機材
パッタンコ(訓練編で説明します)、パラ紐、竹杭、金属杭
タイヤチューブを輪切りにして繋げたゴム紐(後で写真有り)
車がぬかるみにはまった時用のスタック(自作)、野外配線用軟質プロテクタ
外幕(天幕内の光が外に漏れないように入り口に追加でつける布)
車両偽装資材(車両の白い文字やガラスやライト、ミラー等を隠す物)
指揮所内で使用する机や椅子、銃架、物置台、ロウソク、ランタン、照明覆い
各種掲示物を貼るための板と固定具、背負子しょいこ、発電機カバー
天幕の表札、案内板、候敵資材(罠用のワイヤー&防犯ブザー)水缶、クーラーボックス、ガスコンロ、ヤカン、ポット、マグカップ

水缶,野外配線用軟質プロテクタ

左が水缶(このままだと目立つのでOD色(偽装網の緑部分の色)に塗ります)

右が野外配線用軟質プロテクタ(自衛隊内部の通称※アルマジロ)
※丸めた形(右下)がアルマジロっぽく見える事から

 官品より圧倒的に量が多いですが、クーラーボックスより前に書いてある物は絶対に必要です。無いと訓練に支障が出ます。

 訓練資材は所属している隊員が創意工夫を凝らして自作したもので、裁縫が得意な隊員が布製の物を修理し、工作が得意な隊員が壊れたアイテムを作り直す等の補修をしながら使用しています。

訓練毎に使用する消耗品等の調達

訓練毎小隊単位で準備する消耗品や食糧品(お金は割り勘)
おやつラーメン、スポーツドリンク、バナナ、魚肉ソーセージ、インスタントコーヒー、割り箸、アイラップ、除菌シート、スズランテープ、麻紐、ブラックテープねじりっこ、トイレットペーパー

ブラックテープ,ねじりっこ,アイラップ

 左がブラックテープ(黒の絶縁ビニールテープ)、中央がねじりっこ
 どちらも銃などの脱落防止に使用します。

 最近ブラックテープとねじりっこは自衛隊側で買ってくれるようになったらしいのですが、私が山に行っていた時は自腹でした。

 アイラップは食事をする時に使います。山では水は貴重品ですし、洗剤を自然環境に垂れ流す訳にはいかないので、洗い物をしなくても良いように食器(飯盒)にかぶせて汚れないようにします。

 訓練中の食事をイメージしてもらえるような参考写真を撮りました。白米と味噌汁が少なく見えますが、それぞれサ〇ウのごはん1パック分、一般的な具入り味噌汁規定量が入ってます。
 白米と味噌汁は実際はもっと多いです。
 また、任務に就いていてすぐに食事ができない隊員の分は、砂や土が入ったり冷めにくいように2枚目以降の写真のように保存しておきます。

訓練中の食事イメージ

 警視庁でも災害時のテクニックとして紹介していましたが、元祖は自衛隊です!
 災害時に備えて常備しておいても良いかもしれません。

 職場で食料等を用意する理由
 特に夏場の訓練は非常に過酷で脱水症状に陥る隊員も珍しくなく、適切な対処を施さないと命に係わるため、スポーツドリンクはお金を出し合って共有の物を用意します。

 食糧は基本的に自己責任なのですが、食事の直前などに急遽長時間の任務が入ってきた場合に備えて職場でもある程度用意しておく事が多いです。

個人で使う荷物の準備

 登山でも同じですが、山では自分が使う物は自分で用意しなければなりません。人によって荷物の量に違いは有りますが一例を載せておきます。

個人で携行もしくは使用する物品
雨衣、防寒着、タオル、着替え(迷彩服、半長靴、迷彩シャツ、下着、靴下&皮手袋)、ライト、ライター、弾倉や装具の脱落防止、ドーラン、メイク落とし、食料、行動食、飲み物、ビニール袋、ジップロック、腕時計、歯ブラシ

行動食:登山家も使う言葉で、動き回りながら食べられる食料の事。
    飴、ドライフルーツ、スルメ、サラミ等の常温で腐らず軽量の物が望ましい。

有ると便利
ライター、ナイフ、ハイドレーションシステム、カップ麺、人工葉、水の要らないシャンプー

ドーランとハイドレーションシステム

 左がドーランです。エグい色をしていますが普通のファンデーションです。
 写真はカネボウ製ですが、資生堂などの化粧品メーカーが作っている事が殆どです。

 右がハイドレーションシステムというストローが長く本体部分が小さく畳める、リュックに入れたまま飲める水筒です。

車両の準備

 車両を偽装するための準備

 自然環境の山の中では人工物はとにかく目立ちます。特にガラスなどの光る物は反射光が遠くまで届くため、絶対に布などで隠さなくてはなりません。

 車を丸ごと覆い隠せる程大きな偽装網は無いので事前に複数個を編み上げておき、山に行く前に車両にくくり付けます。

 この際、偽装網を固定するために廃タイヤのチューブを輪になるようにカットし、それを繋ぎ合わせたゴム紐を使用します。
 文章だとよくわからないと思うので近い物の写真を用意しましました。

ゴム紐

 このゴム紐は、結び目と結び目の間に草や枝を挟むと固定されるので、天然の草木を偽装に使う時に非常に便利です。

 併せて、車両偽装資材を実際にライトやミラーにつけて、破れやほつれが無いかを確認します。

 チェーンの塗装
 演習場は野山なので雨が降ると所々深いぬかるみが出来るため、必ずチェーンを巻いて入っていくのですが、金属の色は自然界では非常に目立つので黒く塗装をしていきます。
(走ると一瞬で塗装は剥がれますが自衛隊では「ちゃんとやっていますよ~」というアピールが大事なので検閲時は必ず塗ります。)

掲示物の準備

 山で使用可能なパソコンやプリンタなどは配備されている数が少ないので、部隊の中枢以外は紙の表に手書きで勤務や訓練の内容を記録していきます。

 部隊ごとにフォーマットは決まっていて、紙に印刷したものにオーバーレイと呼ばれている分厚いサランラップのようなものを被せ、濡れないように保護します。

 保護した上に更にオーバーレイを何枚も被せていくと、書き込んだオーバーレイをめくれば同じ表を何度も使用できるので非常に便利でした。

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