自衛隊の広大な演習場はどうやって維持されているのか?

演習場 自衛隊

 今年(2023年)は総合火力演習が5月27日にライブ配信されますね。
 ここまで5月で実績を積んでしまうと恐らく夏に現地に行ける総火演はもう復活しないかもしれません。生で見ると迫力が段違いなので少し寂しいですね。

 そんな総火演にも使われる演習場は富士だけではなく全国に点在していますが、どの演習場もだだっ広く、山をそのまま使用している場合が殆どです。

 そんな演習場の維持管理について紹介していきます。

演習場の管理者は?

 当たり前ですが自衛隊です。
 厳密に言うと最寄りの駐屯地司令が管理しています。

 演習場によっては柵の老朽化などで侵入できそうな所もあるのですが、危険なので絶対に無断で入ってはいけません

 夜間は無灯火で車両が走っているため轢かれる恐れがある事や、訓練中の隊員に追い回された挙句不審者と間違われて、誰何すいかされても文句は言えません。

 ※誰何すいか…身元不明の者に対し所属などを尋ねる事。
 強い口調でする事が多い為、不意を突かれるとビックリします。

銃を構える自衛官
写真は防衛省公式Facebookより

維持方法は?

 自衛隊が人海戦術手作業で手入れしています。

 自然の山をそのまま流用しているので放っておくと荒れ果ててしまい、演習場内の道路や演習場外縁の防火帯は草木に飲み込まれてしまいます。

 先述の通り自衛隊の演習場はどれも広大で、本州最大の富士演習場は東京ドーム約2860個分にも相当しますが、他の演習場もかなりの規模です。

 そのため、年に2回多くの人員を投入して大規模な演習場整備をします。

演習場整備の内容

 まず宿営地と呼ばれる、演習場整備をする隊員が寝泊まりする場所を開設します。
 部隊ごとキレイに1列になるように点検しながら天幕(テント)を張り、簡易ベッドを並べ、持ってきた荷物をベッドの下に置けば完成です。

 下の写真の業務用天幕には6~7人程泊まります。

天幕&簡易ベッド

 作業時間は8時~17時、昼休みが12時~13時です。
 45分作業の15分休憩が基本ですが、進捗が遅れると開始時間が早くなったり休憩時間が短くなったりします。

①道路の整備

 山の中にアスファルトやコンクリートで整備されている道路がある訳ではなく、土をロードローラーで踏み固めた程度の道なので、夏を過ぎると路肩が草木に浸食されています。
 路肩に生えた草を刈り、山道で崩れかけた所があれば報告し重機を入れて補修して貰うのが主な任務です。

 ちなみに自衛隊が使用している草刈り機は、全国どこでも大体これです。

草刈り機

 また、自衛隊はお金が無いので刃がこれくらいになるまで使用します。
 刈る草の量が多すぎるので、石などに当てなくても3日作業したらこれくらいになってしまいます。

草刈り機の刃がすり減る様子

 右の写真に近づく程エンジンの回転数を上げないと草が切れなくなります。
 燃料の消費が増え作業効率も落ちるのですが、頻繁に刃を交換できる程お金が無いので仕方がありません。

②側溝の整備

 春の演習場整備はこの作業がメインになります。

 演習場の側溝は道路の両脇を掘り下げただけの簡易的な物から、コンクリートでしっかり作った物など種類は様々です。

 落ち葉や雨で流れてきた土で詰まったり埋まったりしている事が多いため、シャベルや熊手で取り除いていきます。
 側溝の落ち葉や土は乾いている事は殆ど無いため非常に重く、体力的にかなりキツい作業です。

 また、側溝は土嚢で作られている事も多いので、崩れていたら新しい土嚢を用意して積み直します。

側溝を土嚢で補修する風景
写真は防衛日報デジタル版 第5旅団より

③防火帯の整備

 独立峰でもない限り、演習場の周りの山は私有地である事が多いです。

 演習場では空砲や射撃など火を使う事が多いので、万が一森林火災が発生した場合は燃え広がって私有地に甚大な被害を与えてしまうかもしれません。

 それを防止するために、私有地と隣接している部分に防火帯という幅40m程度の「草木を徹底的に刈りこみ、刈った草や落ち葉も処理し可燃物を無くしたエリア」を作ります。下にあるのは山の防火帯の写真です。

防火帯

 通常の草刈りなら刈った草は適当な場所に積んでおき腐らせて土に還せば良いのですが、刈った草は乾くと非常に燃え易いため、放置すると防火帯の意味がありません。
 刈った草は全て自衛隊側の森に集めなければならないので、平均20mは運ばなければなりません。

 平地ではないので手押しや運転するタイプの草刈り機が使えず、手持ち式の草刈り機で草を刈り、刈った草を風で吹き散らかされない所まで運ぶ作業を延々と1km近くやり続ける苦行は、やった事がある者にしかわからない辛さがあります。

④木の伐採

 通常は、目立つ所に生えている木に「木を枯らせてしまう寄生植物」が付いていたら除去する程度ですが、1度演習場内の1区画の林を全て伐採した事があります。

 国有地に生えている樹木は、国有財産なので勝手に伐採してはいけないのですが、盛大に100本単位で伐採させられました

 伐採した木をどうしたかはわかりませんが、未だにあの林を丸裸にした行為は適法だったのかわかりません。

課業時間外編

 演習場整備は、通常1週間程度演習場に泊まり込んで作業をしますが、そんな隊員の唯一の楽しみが夜の宴会です。

 まずは、朝から夕方までひたすら肉体を酷使して汗まみれの身体をキレイにするため風呂に直行します。
 演習場整備期間は、災害派遣で活躍する野外入浴セットが設営される事が殆どなので入浴が可能です。

野外入浴セット
写真はWikipediaより引用

 風呂で汗を流したら準備OK、あらかじめクーラーボックスで持ち込んだビー〇や冷凍肉で焼き肉に舌鼓を打ちながら宴会が始まります。
 宴会はどこの部隊でもやっている事が殆どですので、19時を過ぎれば宿営地は美味しそうな匂いに包まれます。

 ツワモノは重曹や調味料などを持ち込み、昼食等の休憩時間に採ってきた山菜をアク抜きしておつまみを作ったりします。

 また、規模の大きい部隊は※管理要員が多いため、仕事が少ない時は山菜を回収して夜に提供する仕事をしていたりもします。
管理要員:草刈り等の作業をしない代わりに、作業する隊員の食事や水タンクの給水、草刈り機の燃料や修理部品の調整をする人員

まとめ

 最後に楽しそうな事も書きましたが、演習場整備は激務です。

 雷の危険さえなければ豪雨でも作業はしなければなりませんし、作業が遅れてノルマを達成できないと他の部隊に迷惑をかけてしまうため、どの部隊もノルマ達成に必死です。

 簡易ベッドは疲れが余り取れないので、日を追うごとにどんどん疲労が溜まっていき、土埃や泥と汗にまみれながらの作業は中々の苦行です。
 しかし、演習場の維持には必要なので隊員は頑張っています。

 総火演で見る機会がある富士演習場も隊員が苦労してキレイにしていて、観覧席の組み立てや看板の設置なども全て隊員がやっています。

 もし実際に身に行く機会がありましたら、心の中だけで構いませんので隊員の苦労を労ってあげて下さい。

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